あなたのヒロインではないけれど



心臓が、止まるかと思った。


氷上さんが……


持ち上げた手に……指輪にキスをしていて。彼の唇が私の肌に触れた、と理解した瞬間に頭が真っ白になる。


「……できたら毎日身に着けていてください」


そのまま上目遣いで囁いた彼の声はかすれていて……心臓をおかしくする。


熱い……


冷めたはずの熱さが、彼の指先から伝わってくる。


なにか言おうと思うのに、何も言葉が浮かばない。意味もなく唇が開くだけで、言えずにキュッと引き結んだ。


(駄目……心臓が止まりそう)


何も、意味はない。考えてはダメだから。そう必死に言い聞かせる。きっと身に付けてるのを見たら嬉しいだとか……そんな意味で単なる社交辞令。


「はい……あの、なるべく……頑張ってみます」

「家でも、プライベートでも身に付けてくださいね?」


にっこり笑顔の氷上さんだけど、なぜか背筋がヒヤリと冷たくなった。


「……特に……あなたを送れる立場にあるひとに……」


氷上さんは小さな声で何かを呟いたけど、それだけは風に紛れて聞こえない。何かと見上げれば、彼は「何でもありませんから」とにっこり笑って誤魔化した。


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