あなたのヒロインではないけれど
「あ、あの!」
誰かが口を開いてしまったら、たぶん言い出せなくなる。だから、なけなしの勇気をかき集めて先に声を出した。
何だろう? と注目をされてしまえば、羞恥心から視線を伏せて体が震えてくるけれど。このままじゃダメだ、と自分を奮い立たせる。足元にあった紙袋を木製の長机に置くと、中から目的のものを取り出した。
「きょ、今日はバレンタイン……なので。その……よろしかったら……こ、これを」
綺麗にラッピングされた箱と、もうひとつ。不織布の袋に入れたマスコットを、それぞれに差し出す。震えながら渡したそれを、みんなそれぞれ受け取ってくれてホッとした。
「そんな気を遣わなくてもよかったのに……どれどれ」
仲田さんは断ることなくラッピングを外すと、あら! と短い声を上げた。
「あらあらあらあら。大量のチョコレートちゃんじゃない。さっすがに判ってる」
仲田さんは早速ブラックコーヒーとともに、チョコレートをつまむ。そんな彼女に結城さんは眉をひそめた。
「おい、美子。厚かましいにも程があるだろ。さすがに三十路女は……イテッ!」
何が起きたかと言えば。……結城さんの額に……ペンが。ペンが刺さってますよ。
「名前で呼ぶな。あと、私はまだ三十路じゃない」
「いてぇだろ! 三十路だろうがアラサーだろうが、人としてどうなんだよ!」
大型犬のようにぎゃんぎゃん吠える結城さんを、仲田さんは軽くあしらってる。もしかすると……怖い人たちじゃないかも。やっと私の中でそんな認識ができてきた。