あなたのヒロインではないけれど
……30分ほど後。
近所のおじちゃん達まで手伝ってくれ、時間がかかったけれど何とか自転車を起こし終えた。
「すみません……すみません。ありがとうございます」
皆さんには、コメツキバッタみたいに何度も頭を下げるしかないけど、涙ぐんだ私の頭をポンポンと叩いてくれたのは、氷上さんだった。
「ちょっと冷えましたから……そうですね。お礼に缶コーヒをいただけたらありがたいです」
「は、はい! 買ってきますね」
私は脱兎の勢いで自販機に走り、小銭入れからお金を出してホットコーヒーのボタンを押す。
ガタン、と出てきた缶を手で持つと、熱さがじんわりと肌を暖める。 急いで戻ると、既におじちゃんの姿はなかった。
「せっかくですから駅舎でいただきましょうか」
にっこり笑う氷上さんは、ごく自然に私の背中を押して駅舎へと誘う。そして、気づいたら二人並んでベンチに座りコーヒーを飲んでた。
ミルク多めのカフェオレは、体を芯から暖めてくれる。ホッと息を吐いてから、ハッと気づいた。
(まさか……氷上さんはわざと缶コーヒーを奢られて……私の罪悪感を帳消しにしたの?)