年下くんの電撃求愛

失敗したらどうするつもりなのか。店の評判を落とすリスクを背負ってまで、俺に受け入れられなかった腹いせをしたいのか。

よっぽどそんな文句が、口から飛び出そうになった。

助けを求めて周りを見るが、他のスタッフがフォローに入ってくれる様子はない。

お客様を待たせているし、このまま逆らえば実習単位をもらえない。

俺に、拒む余地はなかった。


『……イス、倒しますね』


お客様をシャワーチェアーに案内し、俺は心を荒ぶらせたまま、平静を装って声をかけた。

たしかに学校の授業だけでなく、幼いころから父親に技術面のことは教わってきていたし、シャンプーはもう幾度となく経験したことがある。

けれど、実家以外の場所で、正真正銘の新規のお客様の髪を触らせてもらうのは初めてだ。

緊張は、ぬぐえなかった。

心臓は、痛いくらいに鳴っていた。


『……濡らしますね。熱かったら言ってください』

『はい』


定番の言葉を口にし、手で髪を持ち上げる。

指先にからむ髪。黒の一色が、シャワーボールを埋める。

その感触と光景に、落ち着こうと思っても、自分の体がどんどん強張っていくのがわかってしまう。

全身を舐め回すようなスタッフたちの視線が、その緊張を助長していく。

明らかにおかしい状況だというのに、くすくすと笑い声まで聞こえてくる。

志水さんが、にやついた笑みを浮かべているのがわかる。

粗探しをしている。粗相をしろ、と言われているような気がしてくる。

自分がやることなすこと全て、間違っているような気がしてくる。

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