ファッキンメディカルストレンジャーだいすき

ずっと

松本 道子

彼女は俗に言う恋愛体質で、そのうえ自分を傷つける相手しか好きになれない厄介な性癖を持っている。そのせいで彼女の背中には、傷跡フェチに付けられた(えぐられた)グロい傷とか、アマチュアジョッキーの彼氏に、馬用のムチで叩かれた跡とかが、まるで昨日のことのように生々しく光っている。火傷フェチの男なんかは、道子の腕に何百個もの根性焼きをして、そのせいで道子の腕には、いまだに紫の斑点がびっしり走っている。傷跡で、彼女の細い体は、服の上からでもわかるくらい節くれだってごつごつしている。

それでさー、~した時の専務がね、ちょーかっこよくない?

「まじで!それ眼福ものじゃん」

しかもさ、その後の専務がね、「~しよう」だって!ちょーかわいくない?

「ほんとそれ、眼福だね」

あとね、専務が~する時ね、~したんだよ!すごくない?まさにかっこよさとかわいさの融合!我らが王之内専務に死角はないよ!

「まじか!眼福じゃん!」

道子は王之内専務がだいのだいのだーい好きだ。アメリカアニメのネズミにおけるチーズのように、無心で王之内を追い求める。彼女には一種のセンサーみたいなものがあって、自分のタイプ(自分をシャレにならないほど傷つけてくれる人)に会うと、必ず一発で好きになり、その中でも特上のアタリだったらパンツが湿る。だから道子が好きだといった男とは、絶対に付き合ってはいけない。道子は私たちにとって、そういう地雷探知機みたいな役割を果たしている。そして王之内は、そんな道子のパンツを数年ぶりに湿らせた漢だ。

つまり、絶対に付き合ってはいけない。

道子のパンツが反応した男は過去に3人。中世拷問マニアの書店員と、道子を殺す気で付き合っていたネクロフィリアの男。そして、彼女の体には一切傷をつけずに心のみをひたすらに痛めつけて、道子を拒食症にさせたK。そこに今は王之内も加わって4人。道子が生きているのがいよいよ不思議だ。

でね、その時王之内専務がね、赤い靴下だったんだよ!もう、私、どうにかなりそうだったよ!

「へー、そりゃすごいや。眼福だなあ。」ふと誰かがいった。たぶん私だろう。会話は私の意識の外で、円滑に進んでいく。正直言って、窒息死しそうだった。道子が王之内専務のことが好き、それはいい。人を好きになることには、何ら罰はない。つまり何の罪でもない。別に問題はそこじゃない。結構前から言っていたのだ、道子は。王之内専務がだいのだいの、だいだいだーいすきだと。

でも、私、彼と寝ちゃった。寝ちゃったんだよなー、これが。

どうするよ、ってなっている間に、道子の王之内への愛が、私の喉を絞めてくる。あわよくば、私を殺そうとしてくる。いったん黙らせようと、お昼ご飯を食べさせたが、道子のちっちゃいお弁当箱の中身は、昨日と同じ豆4つで、そんなの道子一瞬で食い終わるし、食い終わった後すぐ王之内の話始めるし、もうお手上げ状態だった。だ、だれか助けてえー!

ほんの一瞬だけ、あいつに来てほしいと思った。思ってしまった。思ってしまったので、来てしまった。来てしまったのだ、奴が。
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