甘いささやきは社長室で



「さっき桐生社長から自分のほうに電話があったんですよ。『熱が出たから今日休む』って。その時に真弓さんにはちゃんと言ったのか聞いたら『言っといて』って電話切られて……絶対言ってないと思ったので」



休みの連絡を、秘書の私ではなく三木さんに……ってことは。



「……風邪ひいてるときに私の声は聞きたくないってことですかね」



冷静にたずねる私に、三木さんは「え!?」と気まずそうな顔をする。



「いや、そうではないと思うんですけど……多分、言いたくなかったんじゃないですか?」



言いたく、なかった?

その意味が分からずにいると、その顔は困ったような笑顔を見せた。



「熱で寝込む頼りない社長だって思われるのが恥ずかしいんですよ。あの人、そういうプライドだけは一丁前ですから」



頼りない、なんて……変なところだけプライドがあるんだから。



休むくらいの熱ってことは、よっぽど具合が悪いのだろう。

そんな時くらい秘書に頼らないでどうするんだか。そんな呆れた気持ちで、ため息がひとつ出る。


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