甘いささやきは社長室で



「鍵締まってる……桐生社長、いないのかな」



いつもは私より先に桐生社長が出勤してきているから、鍵は開いているはず。だけど締まっているということは、まだ来ていないということ?

そう自分の分のスペアのカードキーで鍵を開けると、ドアを開けて社長室へ踏み込んだ。



そこはがらんとして、誰の気配もない。鞄もジャケットもない。

今日は朝から会議の予定だからモーニングは行かないと思うんだけど……珍しく遅刻かな?

ショルダーバッグから仕事用のスマートフォンを取り出し見るものの、そこにはメールの1通すらも来ていない。



仕事の時間になっても来なかったら電話してみようかな。あの男のことだし、女性と一晩過ごしてて寝過ごすとか……ありえそう。

女性と裸でベッドにいる桐生社長の姿を想像すると、「ふっ」と苦笑いが出た。



「あ、いたいた。真弓さん、おはようございます」

「三木さん」



すると、廊下の端からバタバタとやって来たのは今日はワイシャツにネクタイ、黒いセーターを着た三木さんだった。

私の姿を見つけこちらへかけつける彼に「おはようございます」と小さくあいさつをした。



「聞きました?桐生社長、今日休みって」

「え?」



休み?桐生社長が?

初めて聞いたそのことに、きょとんとする私を見て、その顔は『やっぱり』と言いたげに渋い顔をする。



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