甘いささやきは社長室で



「ほっといてください。悪かったですね、お子様で」

「悪くないよー?かわいいじゃない」



『かわいい』、不意にこぼされるそのひと言に耳はつい反応してしまい、ドキッとする心をごまかすように私はグラスの中身をぐいっと飲む。



あぁ、ほら。まただ。

そうやって簡単に距離を詰めて、喜ばせるようなことを言ってみせる。

そんな言葉に簡単に喜ぶ自分も自分で、悔しいけれど。



空になったグラスに、「同じのください」と店員に声をかけると、グラスはすぐに運ばれてくる。



「マユちゃーん?適度にご飯も食べないと酔いが回りやすいよー?」

「お気になさらず。どうせジュースみたいなお酒ですから」



ふてくされたようにそう言うと、私はまたゴクゴクとカクテルを飲んだ。



いつも、私ばかり意識してる。

重なる唇も、触れる指先も、この人にとってはなんてことないこと。なのに、私にとってはそうじゃなくて。



ドキドキと、心臓がうるさくなる。

熱くて、どうしていいかわからなくなる。



からかわれている、そう分かっていても意識してしまうよ。





< 120 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop