甘いささやきは社長室で



「……分かってます。あなたは、チャラチャラしていて最低で、意地悪くて……本当は真面目で、誠実な人だって」



あなたの最低な面も、いい面も、どちらも知っているから。



「あなたの優しさを知っているから、私は今ここにいられます。今こうしてベッドの上にいても、怖いとか嫌だとか、思えません」



甘い信頼だと思われるだろうか。

でも、今ここで酔った相手になにかをするような人ではないと思う。



優しい、人だから。



その思いをまっすぐ見つめて伝えると、桐生社長は少し驚いた顔をしたかと思えば、困ったように笑みをこぼした。



「……マユちゃんには、本当に敵わないなぁ」



そして私の頬へそっとキスをして優しい指先で額を撫でた。



「僕思うんだけどさ、きっとマユちゃん真面目な男とは結婚できないよ」

「……なんでですか」

「マユちゃんには最低なくらい世話の焼ける男が似合ってるから。……まるで、僕みたいな」



『僕みたいな』、……?

その言葉の意味を問いかけようとしたけれど、ぎゅっと体を抱きしめられ、その胸に顔をうずめると、それ以上のことは言えなくなってしまう。



彼の香りが、全身に入り込む。

離したくないと願う、この愛しさの呼び名をきっと彼はわかってる。



だけどそれ以上に、私自身もわかってる。

悔しくて、認めたくはないのだけれど。









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