甘いささやきは社長室で



……それにしても、相変わらずいつも通り。

変わらぬ笑顔で、仮にも異性とふたりきりの部屋で平気で半裸になったりするものだから、昨日のあの言葉の意味が余計にわからなくなる。



それに、昨日はキスのひとつもなかった。頬に少し、触れただけ。

最初はいきなりキスしてきたくせに、こういう時はしてこない。ただ抱きしめるだけだった。

でも、その腕ひとつがどんな行為よりも優しく愛しさを感じさせた気がする。



「おーい、マユちゃーん?聞いてる?」



すると突然、目の前でひらひらと揺れる手のひら。

その手にはっと我にかえると、ベッドに座ったままの私に視線を合わせるように屈んだ桐生社長が私を呼んでいた。



「へ?なにがですか?」

「だから、早く支度して下でモーニング食べて行こって」



ぜ、全然聞いてなかった……。

「は、はい」と明らかに聞いていなかった返事をする私に、桐生社長は屈んだままベッドに手をつき顔を近づける。

ギシ、という音とともにベッドは軽く揺れ、彼はふっと笑ってみせた。


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