甘いささやきは社長室で
「……なんて、すみません。お恥ずかしいことを」
そう恥ずかしそうに笑いながら、花音さんは照れを隠すように髪を耳にかけた。
……そんな純粋な瞳で、かわいらしく笑って。それほど彼を想っているのだろう。
「竜宮様は桐生社長を大変好いていらっしゃるようですね」
「えぇ。父が決めた結婚ですが、私は祐輔さんがお相手でよかったと思っています」
私の問いかけに対しても、花音さんは躊躇ったり誤魔化したりすることはなく、はっきりと頷く。
「彼が私に対して遠慮がちに接してくださってるのも分かってます。本当の彼の顔はまた違うことも……なんとなく。でも、少しずつ知っていけたら嬉しいです。優しくて誠実な、祐輔さんが好きなんです」
言い切って、真っ直ぐな目で私を見る。
その視線に、『どうして私にそんな話を』と浮かびかけた疑問もすぐに答えが出てしまった。
「ですから、その、真弓さんと祐輔さんが……その、」
不意に言いづらそうに口ごもる、その先の言葉も、簡単に読み取れてしまう。
本気なんだ。
花音さんは本気で桐生社長を想っていて、私と彼の関係を誤解しているのだろう。
……言ってあげたい。
あなたの好きな男は、秘書相手にキスするような最低な男だと。
本当の彼の顔は、軽薄で、嫌な男で、あなたが夢見ているような、いいだけのものではないということ。
そしたら、その心も冷めるかもしれない。
婚約者という存在が、いなくなるかもしれない。
なんて、浅はかな理想。