甘いささやきは社長室で
そんな自分だったから、父から『会社のために彼女と結婚してほしい』と婚約者を紹介された時も、特に抵抗なく受け入れられた。
誰といてもこの心は変わらない。
それならいっそ、仕事として割り切ればそれなりに上手くいくだろう。そう思って、花音とも会うようになった。
そんなある時、仕事中偶然目に入ったのは、彼女のクールな横顔。
『お疲れさまです。これ、総務から秘書課あての書類です』
通りがかった秘書課のフロアにいた彼女は、笑顔ひとつなくほかの社員と会話を交わしていた。
……美人。だけど冷たそう。
それが正直な第一印象。
『ねぇねぇ、あの子誰?あのクールそうな美人』
『え?あぁ、総務課の真弓さんですか?たしか氷の女王とか呼ばれてるんですよね、ピッタリって感じ』
当時の秘書の言葉に知った、『総務課の真弓さん』と『氷の女王』というあだ名。
すごいあだ名だなぁ……けど、なんか分かるかも。
そう思った時から、これまで特別気にしていなかった彼女の名前が、なにかと目に入るようになった。