甘いささやきは社長室で





「……で、これはなにかな?」



業務開始時刻の朝9時。ふたりきりの社長室で、桐生社長は顔をひきつらせ苦笑いで私にたずねた。

彼の目の前には、黒いデスクの上にどんと積み上げられた書類たち。



「仕事です。桐生社長にご確認いただく書類と、申請書、報告書……一応私の方で1度目を通しましたが、社長にも把握しておいていただいたほうがいいもののみ選別しました」

「選別してこれ!?今までこんなになかったよね!?」

「これまでは三木さんが目を通して承認やまとめなどをしていたんです。ですが、異動したての私にはそんな権限はありませんから。これからは社長ご自身にしていただきます」



この書類や報告の山を見るだけで、これまで三木さんがどれほどの苦労をしていたのかがよくわかる。

この量に加え自分の本来の仕事もしていたとなれば、泣き付きたくもなるわけだ。



社外とのパイプ役も結構だけれど、社内の把握をしておくことも、社長の役割としては大事だと思うし。



「毎日こまめに確認すればここまでたまらないのに……外出を理由に逃げるから仕事がたまるんですよ」

「だってデスクワーク苦手なんだもーん……」



笑顔ひとつなく目の前に立つ私に、桐生社長は渋々、積み上げられた書類の一番上から手にとって目を通していく。



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