甘いささやきは社長室で
「大丈夫?」
「あ……はい、すみません」
一瞬意識はその体に向いてしまうものの、すぐ我に返り自分の足元を見る。
すると、履いていたパンプスの右足のヒールがポッキリと折れてしまっていることに気付いた。
そういえば、今朝ヒビが入っていたっけ。まさかこのタイミングで壊れるなんて……運が悪い。
近くの花壇に寄りかかるように腰をおろし、苦い顔をした私に、彼の視線も足元のパンプスへと向く。
「うわ……ポッキリいっちゃったねぇ」
「毎日のように履いていたので。仕方ない、ちょっと不恰好ですけどこのまま……」
このまま履いていきます、そう言いかけたその時、なにを思ったのか桐生社長は突然私の背中に右腕をまわし、左腕で足を持ち上げる。
「わっ、えっ!?」
そして軽々とお姫様だっこをすると、そのままその場を歩き出した。
いっ、いきなりなに!?なんで!?
「きっ、桐生社長!?なんですか、いきなり……」
「その靴じゃ歩きづらいでしょ。だから僕が運んであげる」
「結構です、おろしてください!」
突然のその行動に、驚きや恥ずかしさから声を大きくする私に、彼は「ダーメ」と笑って歩き続ける。