甘いささやきは社長室で
持ち上げられた体は、先ほど抱きとめてくれたがっちりとした腕がしっかりと抱えてくれている。
慣れた感じが少しむかつくけど……でもその感触に胸はついまたドキ、と音を立てた。
周囲の人々が驚いたようにこちらを見る視線を感じる。けれど、それを気に留めることもなく彼はスタスタと歩いた。
そしてそのまま桐生社長はレストランへ行く……かと思いきや、予想とは違く近くの靴屋さんへと向かっていく。
「え?あの、社長?」
なにひとつ言わず靴屋に足を踏み入れる彼と、抱き上げられたままの私。そんなふたりを、店員たちは「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎えた。
「すみません、彼女に似合いそうな靴を一足お願いします。あ、普段仕事で使えそうなシンプルなもので」
「かしこまりました。サイズのほうは」
「えっ!?あ、23ですけど……」
短い注文をすると、桐生社長は近くにあった赤いソファにゆっくりと私をおろす。
柔らかなソファに体が沈むのを感じながらよくよく見れば、店内は天井の真ん中に大きなシャンデリアが輝き、ガラスの棚に靴が一足一足おしゃれに飾られて……とても高級感にあふれている。
こんなお店で値段の指定もせずに『似合いそうな靴』と頼むなんて、とんでもない金額のものを持ってこられたらどうするのかとヒヤヒヤしてしまう。
私の靴を買うのだし、もちろん支払いは私だ。今日手持ちいくらあったっけ、いやここはカードで……。
「お待たせいたしました」
あれこれと考えているうちに、店員が運んできたのは黒くシンプルなパンプス。
曲線の綺麗なシルエットに細いヒール。いつも履いているものよりやや高さはありそうだけれど、その華奢な形がかわいらしい。
そのパンプスに目が奪われてしまう私に、桐生社長はそれを手に取ると私の前にひざまずく。そしてヒールの折れた私の靴を脱がせ、足にそっと履かせた。
その靴は私の右足にぴったりとフィットして、足を美しく見せる。