甘いささやきは社長室で
秘書で、社員で、だからご褒美……なんて。
「……別に、皆頑張ってます。会社員だから働くのは当然で、結局は自分のためです」
「うん、そうかもしれない。けどその『当然』は当然なようでそうじゃないから」
「え……?」
当然なようでそうじゃない……?
その言葉の意味を問おうとした私に、桐生社長は続いて左足の靴も脱がせると、新しいパンプスを履かせた。
両足揃ったその靴は、片足だけで見るよりいっそう綺麗で、まるで自分の足じゃないかのようだ。
それと同時に戻ってきた店員からカードを受け取りしまうと、彼は私の前に立ち上がり手を伸ばした。
「よし、じゃあ行こうか」
どうぞ、というかのように差し伸べられた手。骨っぽい長い指をしたその手をとることを少し戸惑う。
けれど、チラリと顔を見上げればこちらを見つめるその笑顔に、どことなく断ることは出来ず、その手を握って立ち上がった。