甘いささやきは社長室で



「わ……素敵」

「うん、ピッタリだしよく似合ってるね。歩きづらくないようなら、これにしようか」

「え!?いや、でも……」



それを見てすぐ決めた桐生社長は「これください」と自分の財布からカードを取り出すと店員へ手渡した。

けれど私はその手を引き留める。



「って、待ってください!どうして桐生社長が払うんですか!」

「え?どうしてって、買ってあげたいから?」

「そんな理由で他人に物を買い与えるのはダメです!!」



この靴がいくらなのかはわからない。けれど、この店内の雰囲気から安いものではないことはなんとなく分かる。それを買ってもらうだなんてとんでもない。

そんな思いで彼のスーツの袖を引っ張る私に、その顔はふっと笑う。



「他人じゃないよ?マユちゃんは僕のために働く秘書で、うちの会社のために働く大切な社員。だから、ご褒美だよ」



そしてその言葉とともにそっと私の手を握って袖からほどくと、店員へ支払いを頼んだ。



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