甘いささやきは社長室で
「……昨日はお世話になりました」
「どういたしまして。何事もなくてなによりです」
ふっと笑う桐生社長へなにげなく視線を向けると、隣に立つ彼は今日はダークグレーにストライプの柄が入ったスーツを着ている。
相変わらずスタイルのいいその体に、高そうな生地のスーツと、真っ白いシャツに鮮やかな青色のネクタイがよく似合っている……が。
ちょうど私の視線の高さにあるその青いネクタイは少し曲がっていることに気づいた。
「桐生社長、ネクタイが曲がってますよ」
「え?本当?」
私の指摘に桐生社長は鏡も見ずに適当にネクタイを動かした。けれどネクタイは直るどころか余計に乱れてしまっている。
「……もう、適当にやらないでください。失礼します」
子供のようなその不器用さがじれったく、私はつい手を伸ばすと、彼の襟元に触れネクタイの位置と形を直す。
こうして見ると、高い背や太い喉、どれも男性っぽい体つきしてるんだなぁ。……って、なに意識しているんだか。
一瞬感じかけた男性としての意識をかき消して、上昇するエレベーターの中で桐生社長のネクタイに触れる。
彼はそんな私を見下ろし口を開いた。