甘いささやきは社長室で
「お疲れ様です、休憩ですか?」
「えぇ。けどすごい混んでて困っちゃって」
「ここお昼時はすごいんですよね。あ、相席でよければここどうぞ」
三木さんはそう言うと、ふたり掛けの席のうち空いているほうの椅子を指差す。
こうも混んでいては仕方ないと、お言葉に甘えて座ると、小さなテーブルの上はふたり分のトレーで埋め尽くされた。
「ありがとうございます、助かりました。こんなに混んでるとは思わなくて」
「どういたしまして」
小さく頭を下げる私に、三木さんからはにこりと笑顔が返される。
「桐生社長の秘書はどうですか?慣れました?」
「……そうですね。慣れてもあの男の相手は疲れますけどね」
「あぁ、わかります……」
彼も同じ苦労を、いや、私以上の苦労を知っているだけあって、そのひと言の重みが違うなぁ……。
笑えずにコーヒーに口をつける私に、三木さんは苦笑いでフォークにパスタを絡める。
「……それに、よく分からなすぎて困ります」
ぼそ、とつぶやいた言葉に『というのは?』と意味を問いかけるかのように、その首をかしげた。