甘いささやきは社長室で
「セクハラって……あなたに言われたくないんですが」
「僕はいいの!社長だから!」
「はいはい、セクハラ社長サマ」
子供のようなその言い分に、三木さんは呆れたように流すとため息をひとつついた。
「あの、それで桐生社長どうしたんですか」
そんなやりとりの間に割り込むように問いかけると、桐生社長は思い出したように私へ視線を向けた。
「あ、そうだ。取引先が予想外に早く来るみたいでさ。ご飯中悪いけど今すぐ戻ってくれる?」
「わかりました」
わざわざ呼びに来なくてもスマホに電話してくれればいいのに……と自分のポケットを探って気付く。仕事用のスマートフォンを秘書室のデスクに置いてきてしまったこと。
近くにいるだろうとここまで探しに来てくれたのだろう。
フォークに絡めただけでまだひと口も食べられていないパスタをもったいないけど下げようと持とうとした手を、三木さんは「あ」と引き止める。
「それ、自分がお店の人に頼んで持ち帰り用に包んでもらいますよ。それで、あとで社長室に持っていきます」
「えっ、いいんですか?」
「えぇ。もったいないですし、真弓さんもお腹空いちゃうでしょう?」
にこ、と笑って気配りをしてくれる三木さんのお言葉に甘えて、私は彼へトレーを任せた。