無垢なメイドはクールな彼に溺愛される
―― え?

「返事は後で構いません

 名刺にプライベートなメールアドレスを書いておきましたので、
 気が向いたらメールをください」


 そう言ってしっかりと頭をさげ、
 大石はユキの返事を待たずに踵を返した。




 ゆるやかなカーブを描いて門へと続く道を、颯爽とした後ろ姿が進んでいく。


――その全てが爽やかな人だ

 爽やかすぎるほど……



 不意に振り向いた大石は、照れたように微笑を浮かべながらもう一度ユキに頭を下げた。

――あっ

 ユキも慌てて頭を下げて答えたが、下げた頭に血が上り、顔が火照って胸がドキドキと高鳴った。



 何かの話の中で、大石はユキの三つ上の三十歳だと言っていた。

 背が高く、スリムな紺色のスーツがよく似合う好青年の大石は、客のみならず同僚の女性達にもモテるだろう。

 適当に美男で嫌味がないほどに陽気で、何より誠実さが伝わってくる。

 ユキに自分の想いを伝えた時の様子からも、時には強い男らしさも備えていることがわかった。


 百貨店といえば圧倒的に女性が多い職場である。

 一流百貨店花菱には美人も多いが、振り返りたくなるほど素敵な外見の持ち主の大石がモテないはずがないだろう。


 なのに何故、自分のような平凡で地味な使用人を誘うのか?……
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