無垢なメイドはクールな彼に溺愛される

「で、ユキを好きだった警備員はなんだって?」

 ひとしきり笑った桐谷遥人にそう聞かれて、お腹を抱えて笑っていた氷室仁が

「あぁ、崎田な」

 崎田に聞いた話をザックリと説明した。



 あの日、ユキを呼び出すことには成功した崎田だったが、ユキを目の前にして少し気後れしたらしい。
 まずは世間話からと思い

『西園寺の鈴木翼さんが、ユキさんはお元気ですかって言っていましたよ』

 そう言ってしまったことが、
 崎田にとって全ての終わりだった。


『えっ……』 と言ったきり、
 ユキが泣きだしたのである。


 いつだって落ち着いているはずのユキが、そんな風に感情を取り乱す理由は何なのか?

『ユキさん……
 もしかして、鈴木さんと何か……』

 崎田はそこまで言ったのものの、

『彼に申し訳なくて……』と泣くユキを問い詰めることなどできるはずもなく、

 ただ落ち着くまで見守ることしかできなかった。




「可哀そうに、崎田はその娘に肝心な話は出来なかったらしいよ」

「生徒会長も罪な男だなぁ」

 クックック



「で? 生徒会長はどんな様子?」

 と聞かれた西園寺洸は、美しい顔を歪め苦虫を噛み潰したとはこんな顔を言うという見本のようにムッとした。


「うっとおしいから 三日の出勤停止を言い渡してやった」

 クックック


「そもそも、いつのまに生徒会長はユキとそんなことになったんだ?」

 と、聞かれても

 西園寺洸は、

「知るかっ」

 と、にべもない。

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