籠姫奇譚
此処は『篭女楼』。
花街の一角にある、生粋の遊廓だ。
この見世では遊女のことを『籠女』、花魁のことを『籠姫』と呼ぶ。
そして彼女、珠喜は籠姫であり、さらに容姿も芸もこの色街一の遊女『太夫』である。
「見ろ、珠喜だ。なんて美しい……」
「こっちを向いてはくれないかねぇ……。あの瞳に泣き黒子、ぞくぞくする」
男を惑わす色香を持つ極上の美女といえば、見世に出れば注目の的だ。
ただの遊女なら喜び、花のような笑顔を浮かべるだろう。
けれど珠喜は憂いげな表情のままで、嬉しがる素振りなど見せなかった。