籠姫奇譚
そんな彼女は、他の誰もが羨み、常に一目置く存在だった。
「貞臣様」
珠喜は、馴染みであるこの男だけに、最高の笑顔を向ける。
男の名は、柏木貞臣(かしわぎさだおみ)。
良家の子息で、美男とまではいかないが、整った顔立ちに、優しい瞳。
そして穏やかな人柄で、申し分のない人物である。
「どうしても君に会いたくてね」
「まぁ……嬉しい」
いつからか、密かに抱くようになった恋心。
それは珠喜にとっての初恋だった。