籠姫奇譚

貞臣は、こうしてほぼ毎日のように珠喜に会いに来る。

彼と共に居られる時間は幸せで、そしてとても短かった。


「──私は幸せだよ。珠喜のような籠姫を、ひとときでも独り占めできるのだから」


「それはわたくしとて同じこと。貞臣様と過ごせて嬉しゅうございますもの」


琴の弦を弾く白い指が、不意に歪な音を奏でた。



ビィン───ッ……


弦が切れ、指先が赤く染まる。

珠喜は不思議そうに自分の指を凝視していた。


「……あっ」


貞臣が、血を流している珠喜の人差し指を自らの口に含む。


「──甘い」


舌の先で丹念に傷を舐めとり、愛撫するように絡める。

口内で舌の先が動くたびに水音が耳に入り、身体の芯が熱くなる。


「さ……貞臣様……っ」


珠喜の唇から甘い吐息がもれるのと同時に、貞臣は口から指を引き抜いた。

余韻が残って、顔が紅潮する。

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