籠姫奇譚

数日後、迎えに来た相手は珠喜にニコリと微笑んだ。
仏のような顔で惑わし、狂わせる男。

女将に頼み、身請けは内々にということになっていた。


「さぁ、珠喜。此方へ」


「……」


その人は手をさしのべる。愛しく、憎い男が。

素直にその手をとることは出来なかった。珠喜は男を見詰めた。


「……わたくしを騙していたの?」


男は気分を害したように、露骨に眉をひそめる。


「──人聞きの悪い。私は父の愛人になるべき人を探していただけ。貴女の気持ちなど知ったことではありません」


他人行儀な冷たい言葉。

覚悟していたとはいえ、さすがに胸が痛んだ。

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