瑠璃色の姫君




「まだ怒ってるのか?」



近付いてくるリーシャは、まだ怒っているように見える。



「怒ってないですっ」



女の子はよくわからないや。


リーシャから手をグイッと下に引っ張られて、膝が曲がった。



「おわっ」


「聞いていいです?」


「何?」



リーシャが、僕を見つめる。


それが真剣そのもので、僕は何を問われるのかと少し構える。



「どうして」


「うん」


「どうして、ここに来てからずっとレティのことを“レティシア”って呼ぶのです?」



……え?


ああ、気がついたか。



「幼い頃は、レティって呼んでたでしょう?」


「ん、呼んでた」


「そうだよね、俺も変だなと思ってた」



ゼノが首を捻る。


その仕草がなんだか可愛らしく見えて、僕は苦笑する。



「それはね、彼女に会えた時に、彼女に向かって呼ぶ名前」


「へ?」



ゼノとリーシャの声が重なって、僕はまた笑った。



「旅に出る時、そう決めたんだ」



2人は口を大きく開けて、それから笑った。



「じゃあ、その名前がバベルの口から呼ばれることを願うことにするです」


「いってらっしゃい、兄ちゃん」



理解のある友人は、そう言って僕の背中を押した。



「いってきます」



フリュイが僕に駆け寄ってきて、ピタリと隣にくっついてきた。



「また来るね」



2人にそう言って、フリュイが手を振る。


リーシャとゼノは、和やかな雰囲気で笑いながら手を振り返した。



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