チェロ弾きの上司。

あたしが席に着くと、左斜め前から、視線を感じた。

シェヘラザードの並びは、客席から見て、指揮者の左側から、ファーストヴァイオリン、セカンドヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順。

真木さんは、あたしからすれば左斜め前の位置になる。

……気づかないふりをしてると、ヴィオラのトップサイド、位置的にあたしの正面に座ってるアカリンが必死で笑いをこらえてる。

もー、何なの、この緊張感のなさ!

三神さんはいつものようにコンマス席に立つ。こちらはいい意味で緊張を感じさせない。

オーボエに合図し、チューニングが始まる。

そして、Aの音をみんなに回す。
みんなの緊張をほぐすように、少し微笑みながら。

ただの開放弦の音なのに、信じられないくらい、美しい音がホールに響く。

やっぱりすごい人だなぁ。
この人がいれば大丈夫って思える。


チューニングが終わり、早瀬先生が出てきた。

燕尾服で颯爽と歩き、三神さんと微笑んで握手し、オケを立たせ、客席にお辞儀をする。
指揮台にあがり、オケ側を向く。
そして、みんなを見回し、にっこり笑った。

その一連の洗練された仕草といったら!
かっこいい……!
素敵すぎる……!

見とれていると、ギン、と視線を感じた。
左斜め前から。

いやいや。
出だしからチェロ見るとか、おかしいでしょう⁉︎
指揮者見るでしょう!
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