チェロ弾きの上司。
「ちょっと、モッチー、あんたたち本番に何やってんのよ! 笑いこらえるの大変で腹筋痛かったんだからね!」
休憩時間の練習室の隅っこで、あたしはアカリンに詰め寄られていた。
「あたしのせいじゃないもんっ」
「灯里さん」
「はいっ?」
2人で振り向くと、クラリネットの麻生くん。
シェヘラザードのソロ、上手だったな。
この4月から社会人になったばかり。うちのオケには去年入ってきた。それでシェヘラザードのトップやったくらいだから、上手。
普段は目立たなくて、ほわっとした感じの男の子。
カテゴリ的に、地味なあたしと似た匂いを感じる。
印象といえば、アンサンブルコンサートの時、練習室でアカリンにスーツの営業されてたことくらいしか、思い浮かばない……。
「お、お疲れ様……」
おや。途端にアカリンが挙動不審になったぞ。
「聴いてくれてましたか?」
「聴いた。聴いたけど、ほら、あたし後半も乗ってるからさ、また後でねっ」
「はい。打ち上げの後、待ってますから」
……な、な、そういうことか⁉︎
シェヘラザードが、大告白大会になってたらしい。
「音楽男子ってバっカじゃないの?」
アカリンは真っ赤になってつぶやいた。