チェロ弾きの上司。
後半のステージ入場待ちの廊下。
ヴァイオリンの列の最後尾で、今度はため息をついていたら。
「どう? ワガママになれそう?」
早瀬先生がキラキラした大きな瞳であたしを見つめてる。
きっと何もかもお見通しなんだろうなぁ……。
「うふふ。昔の私を見てるみたい」
え……?
「幼い頃に婚約したものの、いざ結婚ってなると、それなりに迷ったの。好きかどうかもわからなかったし。そんな私にね、言ってくれた人がいたのよ」
早瀬先生は少し離れたところにいる三神さんを見た。
「失うことに比べたら、新しい世界に飛び込むことなんて怖くないって」
早瀬先生は、あたしを見て、微笑んだ。
練習の時とは違う……女性としての素の微笑み。
わあ、かわいい。
「カルテット、とっても楽しそうで、うらやましかったわ」