チェロ弾きの上司。

トイレで手を洗っていると、佐倉さんが入ってきた。

「望月さん、調子悪そうだけど、もしかして、アレ?」

「はい……」

正確に言うと、直前ですが……。

「私も若い頃重かったからわかるわー。つらいよね。私の場合、子ども産んだら軽くなったけど」

それ、よくききます……。
が、全く見込みがございません……。
そういう行為をしたことさえ、ございません……。

「そうだ。 娘ね、バイオリン習い始めたよ。うれしそうにキコキコやってる」

「ほんとですか! よかったです!」

心が傷つきやすい時期は、感受性が敏感になってると思うことにしてる。

だって、こんな些細なことが、ものすごく嬉しいもの。

佐倉さんが話しかけてくれたことも、共感してくれたことも、娘さんがヴァイオリン習い始めたことも。


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