チェロ弾きの上司。

あたしの業務終了と、社長や真木さんのミーティングが終わったのはほぼ同時だった。

「お先に失礼します」
「お疲れさん」
社長や真木さんは部屋を出て休憩室に向かう。

帰ろうと部屋を出ると、廊下に真木さんが立っていた。

「お先に失礼します」

頭を下げて階段に向かおうとすると。

「ブラインド、サンキュ」

柔らかい真木さんの声が降ってきた。

……優しい⁉︎

優しくしてほしいって思ってたはずなのに、いざそんな声で話しかけられると、なぜかひどく動揺してしまう。

動揺して。
照れくさくて。
思わず。

「楽器に罪はありませんから……」

と言ってしまった。

途端。

「ほお」

低い声。
いつもの怖い声。

あ。まずい。

「誰かに罪はあるような言い方だな?」

失言でした!

「いえ、それはですね、言葉のアヤというか……っ。い、急いでるのでお先に失礼しますっ」

真木さんは、フン、と鼻で笑った。

「元気になったじゃないか」

えっ?

「そうでないと、いじりがいがない。じゃ、また後でな。モッチー」

……やっぱりいじって楽しんでるのか……!

後で会いたくない!




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