チェロ弾きの上司。
「お前、毛替えは?」
真木さんが口を挟んできた。

「春にしましたが……」

「まさか1年に一回とか?」

「はい……」

「アホか。お前くらい練習してる弓だったら、最低でも半年に一回は替えるべきだろ」

弓の毛は馬の尻尾。
使い続けると伸びたり摩擦がなくなったりしてくるので、定期的に替える必要がある。

あたしは1年に一回。

だってお金かかるんだもの。
弾けなくなるわけじゃないんだもの。

今度のカルテット本番に向けて、さすがに弦は新しいものに替えようとは思ってるけど。




休憩を挟んで練習後半。

「うん。いい感じでまとまってきたね」

三神さんが微笑んだ。
アカリンもうなづく。

確かに、“こう弾きたい”という理想に少し近づけた。

「何だよ、楽器のせいだったのかよ」

真木さんが呆れたように言った。

「毛替えもしたらもっとよくなるんじゃないかとオレは思うね」

あぁ、恥ずかしい……。





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