不器用ハートにドクターのメス
そういったやり取りのあと、真由美はやっと、ナイフとフォークをテーブルから持ち上げた。
早く食べなければ、先生がもう食べ終わってしまう。いくら可愛くても、これは食べ物なのだ。
小さく息を落とすと、真由美はゆっくりと、クマのパンケーキにナイフを差し込む。
なんとなく、まずは耳から。耳をふたつ切り離してしまうと、皿の上にのっているのは、丸いだけの不思議な生き物になった。
右耳をフォークで拾い上げ、そろりと口に運ぶ。
舌の上にのせると、メープルシロップの濃厚な甘みがじんわりと染みてくる。
飲み込むときに、ごくん、と変な音が鳴ってしまい、真由美は慌てて、そばにあったお冷を流し込んだ。
先ほど神崎から、こんなもんで腹がふとるのかと尋ねられたが……それどころか、全部入らないような気がする、と真由美は思った。
神崎を正面にものを食べるという行為だけで、すでに胸がいっぱいになってしまい、満腹中枢が錯覚を起こしているかのようだ。
けれど昔から、食べ物には感謝するよう教育されてきた真由美だ。お米一粒一粒、農家の人が大切に作っているのよ、と。お残しなんてもってのほかだった。
少し時間はかかったものの、なんとかクマを切り分け、真由美は全てを腹におさめることができた。
会計を済ませ、ログハウス風の店を後にすると、神崎と真由美は、再び車に乗り込んだ。
ハンドルを握る神崎は、時折気遣うように、真由美に話を振った。
尋ねられれば一生懸命答えるものの、自分から神崎に質問したりするようなことは、真由美にはできなかった。