不器用ハートにドクターのメス
どうしても、こんなことを聞いて失礼に当たらないか、だとか、嫌な気持ちにならないかという心配が先走ってしまうのだ。
けれど本当は、尋ねてみたかった。先生は、どうしてあんな可愛らしいクマがいる飲食店を知っていたんですか、と。
もしかすると、女の人と一緒に来たことがあるからかもしれない。そう思うと、満腹で苦しい腹の少し左上の部分が、なぜかツンと痛んだ。
そもそも、ドクターって普段、どんなものを口にしているんだろうと、真由美は次に考える。
……やっぱり、すごく高級品を食べていそうだよなぁ。
先ほどのフォークナイフさばきを見ているせいか、真由美の脳内では、神崎が肉厚なステーキに切り込んでいく想像が繰り広げられていた。
フォアグラにキャビア。伊勢海老にアワビ。とりあえず高級だと思われる品を思い浮かべているうちに、車は再び停車した。
停車したのは、街中のパーキングだ。友人が少ない上、つい休日も勉強に充ててしまう真由美には、街に出てくるのも久方ぶりのことだった。
「降りるぞ」
「は、はいっ」
神崎の言葉に、あせあせとシートベルトを外し、真由美は車外へと降り立つ。
先ほどは、まずは飯、といった予告があったが、今回はまだ、何も知らされていない。
一体どこに連れていってもらえるのだろうと、真由美はワクワクとハラハラが入り混じった気持ちを抱えて、神崎を見上げる。
予告はないものの、神崎は、すでに行き先をきっちり定めているらしい。
歩き出したその足取りには、全く迷いがなかった。