不器用ハートにドクターのメス
「楽しくて……今日一日を、す……すごく、早く感じて……っ、」
言葉は、止まらなかった。
重いはずのくちびるは、感情の高ぶりに持ち上がり、そこから言葉は、こぼれ続けた。
「先生と、一緒にいられたことが、嬉しくて……!!今、ちょっと……ちょっと寂しくて……っ、わたし――」
その瞬間。真由美の腕に、ぐいっと力がかかった。
腕を掴んだのは、窓から手を伸ばした、神崎だった。
不意打ちの動作に、真由美の体は車の方に引き寄せられ、簡単に傾く。
その落差に驚き、だから、くちびるに触れたものがなんなのか、気づくのに少し時間がかかった。
くちびる同士が離れ、間近にあったのは……切なげな、熱のこもった、神崎の視線だった。
「……おやすみ」
くしゃっとつかむように、神崎は、真由美の髪を一撫でした。
目の前で、窓が閉まる。車が再び、発進する。
神崎を乗せた黒の車体はどんどんと離れていき、やがてゆっくりと、先にある角を曲がっていく。
夕方と夜の境目である、薄闇の中。
神崎の気配がすっかり消えてしまっても、真由美は呆然と、その場に立ち続けていた。