不器用ハートにドクターのメス
今さら後悔にさいなまれ、その場から動けずに立ち尽くす。
すると、数メートル先で、赤いブレーキランプとともに車が停まった。
あれ、と思い、真由美は数回、瞬きを繰り返す。
何か、忘れ物をしてしまっただろうか。そろりそろりと近づいていくと、運転席の窓が開いた。
「せんせ……」
「福原」
もう一度見たいと思っていた神崎の顔が、再び現れる。
その顔を柔らかく、しょうがねぇなぁとでもいうように崩して、神崎は言った。
「……言いたいことは、ちゃんと言えって言ったろ」
「……っ!!」
その瞬間、真由美の涙腺はまた、簡単に崩壊してしまいそうになった。
自分が何か言いたかったということに、気づいてくれたのだと。
それで車を停めてくれたのだと……言いようのない思いが、真由美の中に込み上げる。
どうして、と思う。くしゃっと顔にシワを寄せて、半泣きになりながら、思う。
先生はどうして、みんなから煙たがられるわたしのことを、上手に理解してくれるんだろう。
どうしてこんなにも、先生は、優しいんだろう。
「~楽しかったです……!!」
気がついた時には、大きな声で、そう言っていた。
消極的な気持ちや、羞恥。残っている負の感情に打ち勝つ、もっと強い衝動が、真由美の中に生まれていた。
「今日、わたし……っ、すごく……すごく、楽しかったです!!」
車の中にいる神崎から目を逸らすことなく、真由美は一生懸命、気持ちを伝える。
夕暮れには似つかわしくない張った声が、他には誰もいない、道路に響く。