不器用ハートにドクターのメス
車で走ること約3時間。
降車した二人を次に待っていた交通手段は、ケーブルカーという乗り物だった。
温泉宿は、山の中腹辺りにある。向かうには、山岳の急斜面を上がらねばならない。
普通の電車では困難なので、ケーブルで繋がれた車両を巻き上げて運転するこの鉄道にて、移動を行うということらしい。
レトロな赤色をしているケーブルカーに踏み入ってみると、その内部はいつも利用するような電車とさほど変わりない光景だった。
座席は、左右の側窓を背にして座るタイプの、長いベンチ様になっている。
二人が横並びに座ってほどなくして、ケーブルカーは走り出した。
平日休みをうまく利用した旅行であるせいか、車内の客数は少なかった。
神崎たちのほかに、老夫婦が3、4組ほどいる程度だ。
みな座席に腰を沈め、温泉に向けて気持ちを弾ませているのか、にこやかに語り合っている。
「なんか、すごく新鮮ですね」
静かな車内。隣に座る真由美が、まるで独り言のように、小さな声でぽつりともらした。
通路の日だまりに視線を落としていた神崎は、その声に顔を上げ、軽く首を傾げる。
「新鮮?」
「はい。こういう山の景色って、日常では見られないから」
その言葉を聞き、対向側の窓に見える景色に、目を向けてみる。
木々が生い茂ってはいるものの、季節が季節なのでほとんどが茶色い枯れ葉か裸木になっていて寒々しく、決してわあっと歓声を上げられるような絶景ではない。