不器用ハートにドクターのメス

互いにそそくさと準備をしたあと、神崎と真由美は一階に降り、男湯と女湯に分かれて入浴した。

宿自体4組しか受け入れを行っていないせいか、他の客の姿はなく、広い温泉は貸し切り状態だった。

大きな岩に囲われた温泉の湯は、体をいきなり浸すには少し熱すぎる温度だ。

ばしゃばしゃと乱雑にかけ湯を行ってから、神崎はどっぷりと、その湯に体を沈めた。


「はあ……」


温泉の湯が吹き出してくる音に混じらせるように、ため息をつく。

この旅行で、べつに何かを期待していたわけではない。

一緒にゆっくり過ごせればいいと思っていた。それだけだ。

けれど、先ほどのやり取りで、神崎の中にはもどかしい感情が芽生えていた。

まるで真由美の緊張がうつってしまったかのようだ。

何も意識せずにいたのに、一緒の部屋で二人きりで過ごし、隣で眠るということが、今になってものすごく大それたことのように思えてしまう。

赤く染まった顔を思い出すと、邪な感情が膨張してしまう。

はたして理性がもつのか、急に不安になってくる。

こんなのまるで、学生時代に初めて彼女と旅行に来たシチュエーションみたいじゃねぇか……と、神崎は苦く、顔をゆがめる。

若かりし頃に体験しうるそのシチュエーションを、33の今になって味合わされることになるなんて。

もどかしさがピークに達し、神崎は両手で熱い湯をすくうと、じゃばりと、ためらいなく顔にかけた。




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