不器用ハートにドクターのメス

神崎の手は一回り大きく、真由美の手は、すっぽりと包み込まれてしまう。

素晴らしいオペを行う貴重な手が、今自分だけのものとなっていることに、真由美は若干の恐れ多さと、それを上回る幸福を感じていた。

寒いからか、よけいに結び目があたたかく感じられる。

少し無言になり、歩く。旅館で借りた簡易下駄が、カランコロンと軽快な音を立てる。


「……いいもんだな、こういうの」


真由美がほんのりと耳朶を染めていると、神崎が隣でつぶやいた。


「こういう旅行は、今までしたことがない」

「そう……なんですか?」

「おー」

「……あの……でも、」


歴代の、彼女さんとかは。

そう尋ねかけて、真由美ははっと口をつぐんだ。

こんなことを聞いてしまうのは、なんだかおこがましいしばつが悪い。

しかし神崎は、真由美の言葉の続きを、さらりと読み取ったようだ。


「来たことねーよ」


そう言って、はっと、苦笑気味に笑った。

一人前にやきもちを妬いたことがバレてしまったと、真由美は無性に恥ずかしくなる。

そして同時に、嬉しく思った。

自分よりずっと大人で人生経験豊富な先生には、初めてのことなんて、もう残っていないと思っていた。

でも、こういう温泉旅行は、初めてなんだ。

嬉しい感情がそのまま顔に出そうになってしまい、真由美はにやけないよう、くちびるにぐっと力を込めた。


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