不器用ハートにドクターのメス
温泉街の雰囲気を満喫して帰った二人を待っていたのは、豪勢な夕食だった。
何品あるか、指さしで数えなければならないほどの品数。
新鮮な野菜をふんだんに使用した創作和食はどれも工夫と繊細さを感じられるもので、メインの肉や魚も、ほどよく油がのっていて上質なものだった。
素材の良さを楽しむ料理とはこういうものなのかと、真由美は何かしらを口に含むたびに、忙しく感動に浸っていた。
美味しい料理に、ちびちびと飲む日本酒。
そして目の前には大好きな人……というこの状況は、なんて贅沢なんだろう。
やっぱり夢のようだと、そんなことばかり思ってしまう。
「お前結構、酒強いんだな」
ずいぶん腹も落ち着いてきた頃。黒い椀に入った、赤く色づいた海老真丈に箸を入れながら、神崎が言った。
「あっ、はい。お父さんがすごく強いので」
「ああ、そういやお前、すっげー似てるよな。親父さんに」
納得したように言われ、真由美は少し複雑な気分になる。
父親のことは好きなのだが、娘の自分から見ても、父親は裏家業の顔をしていると思うからだ。
お兄ちゃんみたいに、少しでもお母さん要素が入っていたらなぁ……と、真由美は今さら切なく思い、それからふと、疑問を抱いた。
先生は、お父さんとお母さん似、どちらなんだろう。
「あの……先生は」
「ん?」
「先生は、どっち似なんですか?」
「俺か?俺は、どっちってわけじゃねーんだよな」
おちょこで酒を一口ひっかけて、神崎は答える。