不器用ハートにドクターのメス
そして、もう一つ。
真由美は、謎のノートを肌身離さず所持している。
それは、グレー色のカバーがついた分厚めの小さなノートで、真由美は暇さえあれば、それに書き込みをしているようなのだ。
怒り顔でガリガリとボールペンを押しつける様子はちょっと異質なもので、災いの呪文でも書き付けているのかと、目にした者に狂気すら感じさせる。
ここまで見ていて、やっぱり人嫌いでプライドが高い女だということはまず間違いないと、神崎は再度、確信した。
早朝に勉強しているのは、同期から一人抜きん出ようという出世欲からだろう。
自尊心が強く、くわえて、あのノートに向かう形相。オカルト寄りの人物だということも考えられる。
……ところが、だ。
その予想は再び、まるっとくつがえされることになる。
それは、神崎が観察を初めて、十日目の昼休憩時の出来事だった。
入院棟での回診が早めに終了し、コーヒーでも買うかと建物外へ足を運んだとき、神崎は偶然、真由美の姿を中庭に見つけた。
中庭とは、東館と南館の間に作られた、芝とベンチがある小さなスペースで、職員も入院患者も使用してよい場所となっている。
とは言っても、職員は利用できる部屋や職員専用食堂などがあるため、わざわざここまで出てくるものも少なく、職員を中庭で見かけることはめったにないのだが。
けれど、そこに今、たしかに福原真由美が存在している。
ベンチの隅に、自作と思われるラップに包んだむすびを持って、座っている。