不器用ハートにドクターのメス
なんでも、寝る前が一番脳みそへの吸収がいいらしい。
これは真由美が中学生になったばかりのとき、テレビ番組で得た情報だ。
明日の分の予習までを終えると、真由美はそこで布団に潜り込むことはせずに、別の教科書を取り出した。
開かれたのは、心臓オペの教科書だ。
明日、心臓オペにつくわけじゃない。今しなければならない勉強じゃない。でも。
『来週お前、俺のオペつくことになってんぞ』
神崎に言われた言葉が、ずっと頭をはなれなかったのだ。
……なんなんだろう、わたし。
シャーペンの先をカツカツと教科書に当てながら、真由美はぎゅっと、くちびるを結ぶ。
最近、神崎先生に会うと、変に意識してしまう。でも、それだけじゃない。
会っていない今も、どうしてか、先生のことばかりが頭に浮かんでしまう。
真由美の中で、神崎はまだ、やっぱり恐れ多い存在だ。
怖い、と思う。でも同時に、神崎のことを考えるとき、真由美の心はふわりと弾む。
自分の中身だけが舞い上がって、飛んでいってしまいそうで……これはいったいなんなのだろうと、真由美は思う。
どれだけ考えても、初めて味わう感情を紐解くことは、真由美にはできない。
せっかく心臓オペの予習に取り組もうとしたものの、どうにも集中できず、真由美はいったんシャーペンを置くと、カバンの中からノートを取り出す。
例の反省ノートだ。グレーのカバーがついた、クマーヌの。
神崎に、渡したことのあるノートだ。
“福原真由美”
そのノートの、自分の名前が書かれたページを開き、真由美は思わず、ほおを緩ませる。