不器用ハートにドクターのメス
「あの、本当に、ありがとうございました……っ!」
言いながら、ありがとう以上の感謝の言葉が日本語にはないものだろうか、と真由美は思う。
すごく辛い一日だったけれど、同時に、すごく嬉しい日だった。先生のようなお人にこれだけ助けられ、関わってもらえる機会なんて、きっとそうそうあったものじゃない。
そして真由美は、自分が今からこの車を降りることに、どこか一抹のさみしさを覚えていることに気づく。
少し前までは、車よりもう少し広い事務室や旧書庫で2人っきりになるだけでも逃げたくてしかたなかったのに、なぜか、今は違っている。
相変わらず緊張していて心臓はうるさい。けれど、それでも、まだもう少し。そんな理解不能の気持ちになってしまう。
「本当に、今日はご迷惑を――」
「福原」
深く頭を下げたまま言葉を続けようとしていたところ、神崎に名を呼ばれ、真由美ははっと顔を上げる。
真由美が神崎を見上げたタイミングと、神崎が真由美の頭にぽん、と手をのせたタイミングは、ほとんど同時だった。
「……最後まで、よく頑張ったな」
そう言われた瞬間。真由美は思わず、くちびるを震わせた。
目元が、熱くなるのを感じた。
驚きだった。まさかそんな言葉をもらえるなんて、少しも思っていなかった。
そして、次に継がれた神崎の言葉に、真由美の涙腺は、いよいよ刺激された。
「予習、ちゃんと頑張ったんだろ」
「は……はい……っ」
「……うん。この間よりずっと、やりやすかったよ」