不器用ハートにドクターのメス

なので、神崎のように三十三を越えても結婚しないドクターは、どちらかといえば異質な側だった。

そして、教授たちが神崎を放っておかない理由は、なにも、神崎の年齢だけに限ったものではなかった。

神崎は、申し分なく優秀な心臓外科医だ。

三十三歳にして最難関のオペでもメインを張っていて、その手際の良さで、ほかの科のドクターからも一目置かれている。

まさしく、敏腕執刀医。心臓外科のホープ。

注目をかうがゆえに、神崎はよけいに、なぜそんな男が家庭をもたないのかと声をかけられるわけで、なかには自分の娘をどうか、などと本気ですすめてくる教授もおり、神崎は心底辟易していた。


「俺はオススメするけどね、結婚」


神崎の言葉に、笑いながらそう答えたのは堂本だ。

堂本は四年前に結婚し、妻との間に子供も授かっている。二歳になったばかりの女の子で、まさに可愛いざかりといったところだ。

とくに子ども好きでなかった男が、いざ父親になってみると子煩悩へ変化を遂げるというよくあるパターンで、堂本は、自分によく似た娘を、目に入れても痛くないほど溺愛していた。


「いいもんだよ、家庭っつーもんに多少縛られるのも。地に足が着くっていうか、仕事にもハリが出る」

「……それがわかんねーんだよ」


堂本の言葉に、神崎は忌々しそうに目を細め、苦々しい息を吐く。

堂本が、わりと柔軟性にとんだタイプであるのとはちがって、神崎は、融通がきかない、自分の意志を貫き通すタイプで、かつ、常に刺激を求める男だ。

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