不器用ハートにドクターのメス
定位置に車を停め、エンジンキーをひねると、音と振動がぴたりと止んだ。
ますます静かになった車内。決まりの悪い気持ちで、神崎は左隣を見る。
怖い顔で固まっている真由美が、神崎の目に映り込む。
真由美が動き出す様子はない。自分が先に下りるのを待っているのだろう。
そう気付いてシートベルトに手をかけ、けれど外すことはせずに、神崎は息をつく。
決して楽しい雰囲気ではないにも関わらず、自らこの空間を無くしてしまうのは、なぜか惜しいものがあった。
「……福原」
「は、はい」
「お前さ」
目だけではなく、首を左側に回して、真由美を見る。
数秒間ためらった後、神崎は言った。
「……なんか、悩みとか、ないのか」
「……え?」
真由美がきょとんとした声を返したのも無理はない。神崎のそれは、あまりに唐突な質問だった。
けれど、神崎の脳内には、一応、その質問をした理由がしっかりとあった。
『……本当は、優しい子なんです』
昨晩、真由美の父親から話を聞いた際。
神崎は、すでに外見と中身が違うことはよくわかっている、という感想を持った。
よろしくお願いしますとも言われたが、よろしくされずとも、神崎は真由美のことを気にかけてしまっている。
ただ、一つだけ。仕事のことでいろいろ悩んでいる、親にも言えていない、という点だけが、ずっと引っかかっていたのだ。
身を切るように勉強に励む福原のことだ。たしかに一人でため込んでいそうだと、神崎は思う。
けれど何について悩んでいるかは、本人から言ってもらわなければ、観察眼の鋭い神崎にもわからなかった。