いつか孵る場所
「住む場所はどこにするんだ?」

和やかな雰囲気の中、食事が進んでいく。

純の問いに透は

「しばらくは僕の今のマンションで住むよ。
子供が産まれるまでにはもう少し広いところへ」

そう言ってハルを見つめた。
隣にいるハルも頷く。

「病院の近く?」

至が聞くと

「いや…今後の事を考えると兄さんの家の近くが良いかも」

至の家はこの実家から程近い。
桃子の実家もここから近い隣の市にある。

「ここに住めば?」

純の突然の提案に透もハルも唖然とする。

「ど…同居は嫌だ」

動揺しながら透は首を横に振って露骨に嫌がる。

「誰も同居とは言ってない。二世帯にして、1階と2階で別の空間を作れば良い」

純は立ち上がるとファイリングされた書類を棚から取り出した。
それを透に差し出すと透は物凄い速さで資料を読んだ。

「…父さん、これ、見積りじゃないか」

ハルにそのまま資料を渡す。
中を開けるといきなり見積書があり、その次のページには1階、その次には2階と見取り図があった。

「至から色々聞いてから、こちらも考えていた。
俺ももう歳だし、この家も誰か最後には引き取って貰う、と考えた時に、お前しか浮かばなかった」

透はじっと父、純を見つめた。
いつも病院ですれ違う時は一瞬でしかない。
改めて今日、見るといつの間にか随分と歳を取っていた。

「…しばらく、考えさせて。答えはそんなに遅くはならないと思う」

普段ならその場で回答することが多い透が珍しく保留にした。

「その前にハルの気持ちが一番大事だから」

その場にいる皆がハルを見つめた。
ハルは威圧感に震える手をぎゅっと握りしめる。

「お義父さん、ハルちゃんをこれ以上ビビらせないでくださらない?
ちゃんと言ってくださいよ、本心」

桃子が茶化すように、けれど諭すように鋭い視線を純に投げかける。

「…ハルさん、もし不都合がなければここに透とハルさんと子供で住んでください」

桃子の目がカッと見開く。
純に更なる圧力をかけていた。

「お…お願いします」

純はハルに頭を下げる。
ハルは大きく呼吸をすると

「…私には妹がいます。
今は透の出身大学の医学生ですけど…。
今まではいつでも帰って来られるようにしていました。
ここに住むと妹が気軽に帰って来られないんじゃないかって思います。
それが心配で…」

至はうんうん、と頷く。

「じゃあ、部屋を作ったらいい?」

純は見取り図を開いた。

「実際、夫婦二人だけならこんなにスペースはいらない。
ここを妹さんが帰って来られるような部屋を作っておけばいいんじゃないか」

1階のフリースペースを指さした。

「果たしてなっちゃんがそれを納得するかどうか」

透が腕組みをして何やら考えていると

「お前、なっちゃんのところへ一度行けば?来週か再来週にでも」

至が言った。

「ちゃんと挨拶して来いよ。お姉さんと結婚しますって。
いや、もうその時には入籍しているだろうからなっちゃんの許可なく結婚してます、か」
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