いつか孵る場所
「申し訳ございません。
大学在学中はこちらには帰らず、医学に専念していました。
卒業後はしばらく向こうの病院にいましたので」

「でもこちらに帰ってきたのは数年前だろ?何故来ぬ?」

「当直や呼び出しでほぼ病院にいました。
今日は父のおかげで免除されております」

チラッと透は父、純を見た。
純も透が何を言うか、警戒しているのがわかる。

そのやり取りの間、透の従兄弟・姉妹、その子供たちが全員到着したらしい。
後ろでヒソヒソ話と着席する音が聞こえた。

「で、お前の嫁はその方か?」

高圧的な声がハルの頭上で響く。

「はい」

「名は?」

ハルは素早く深呼吸をして

「ハルと申します。よろしくお願い申し上げます」

と深々と頭を下げた。

「こちらこそ、よろしく。ところでどこの学校出身だ?」

「桜ヶ丘高校です」

ハルは真っ直ぐ武を見て言った。

「…透と同じ高校か」

周りの従兄弟から高卒か、とヒソヒソ聞こえた。

「ほう…透にしてはその程度か」

父の次兄、宏がニヤニヤしながら言う。
完全に馬鹿にされている。

「高卒でも日商簿記1級の資格があり、会社でも経理をしています。
学歴は関係ないと思いますけど」

− お前の子供に比べたらずっと格上だ −

透はそう言いながら心の中でも呟く。

宏には3人の子供がいる。
全て男だが、一応大学は出ているものの全て親のコネクションで就職した。

「で、式はいつするんだい?」

父の弟、慶が聞く。

「妻の体調次第です」

一瞬、その場が静まり返った。

「…何、それはきちんと説明してくれよ」

宏の長男、貴一がわざわざ聞く。

「今、妊娠7週くらいです。
昨日まで入院していましたので」

貴一の弟、高史が鼻で笑う。

「お前、出来婚って恥ずかしくないのか?」

「別に」

透の氷のような冷たい目が高史を捉えた。

「最初から結婚するつもりだったから僕にすれば何も問題ない。
ちゃんと入籍もしている。
お前みたいに女関係で会社から謹慎処分食らう方が恥ずかしいわ」

高史は透よりも年上であるが、お前呼ばわりされるわ、会社の処分のことまで言われるわ、で面子丸潰れである。

「う…うるさい」

「うるさいのはお前の方だ」

机をバン!っと叩く音が聞こえ、その方に注目が集まる。



「もうその辺で止めろ」

ハルにとって聞いた事がない至の低い声が響いた。
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