いつか孵る場所
「そういう言い争いは本当に時間の無駄だ」

至はそれだけ言うと黙りこんだ。

父親の世代は長男の武の力が強いみたいだがその子供の世代になると至が一番強いみたい。

皆が至に気を使っているのがわかった。



「式の日程がわからないとこちらも予定が…」

慶が困った表情で呟く。

「まあ、そんなに固く考えなくても良いと思いますけど。
透の事なのでその辺はきっちりするかと思います」

再び至は口を開いた。

「まあ、出席出来なくても問題はありません。
そもそも透が式とかそこまで考えずに勝手に入籍していますので、その辺りはお気になさらないでください」

琥珀がこっそり手を叩いていた。

「しかし、子供が先とは。透もだらしがない」

武が呆れ顔で言った。

「20年…」

透は武を真っ直ぐ見つめた。

「僕は20年、この時を待っていました。
妻と一旦別れて…いや、別れさせられて、それでもどこかで想い続けてきました。
そりゃ大学の時に彼女がいたりしましたが、すぐに別れてしまいました。
お見合いも全て断ってきました。
ずっと、僕の中に彼女がいたからです。
もう誰とも結婚しないで生きていこう、と思っていたら偶然再会したのです。
妻もまだ結婚していなかったし、このチャンスを逃すわけにはいかない。
…僕が強引に押し切ったのです。
だらしがないというならそれでも結構です。
でも、これは僕の人生を掛けた我儘ですので僕の事はいくら言ってもらって結構。
ただ妻の事は決して悪く言わないでください」

純は下を向いた。
少し微笑んでいたのを琥珀は見逃さなかった。
至も少し口元を緩めていた。

面白くない顔をしているのは従兄弟・姉妹連中。
琥珀以外はムスッとしている。
透を苛める隙がほとんどないからだ。

「…おめでたい話なのに」

琥珀が口を挟んだ。

「純叔父さんにとっては透の奥様のお腹にいる子が初孫なのよ。
どうして素直に祝福してあげられないのかしら。
それに…少し顔色が悪そう。
つわり、酷いって聞いてるから、向こうに行ってゆっくりしましょう。
馬鹿な話は男どもに任せておいたらいいのよ」

琥珀はハルの元にそっと歩いて行き、しゃがみ込む。
そして手を取り、立ち上がる。

「透、奥様を向こうで休ませますよ。
あなたはここの石頭たちに自分の意見をわかるまで訴えてなさい。
それくらいは出来るでしょ?一族で一番聡明なんだから」
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