いつか孵る場所
透が出ていくと静まり返る部屋。
遠くで騒がしい音がする。

もう1ヶ月くらい、ここで入院している。
新しい家は使い勝手の良い間取りでハルが注文を付けなくても充分な家だった。
なのに、すぐに入院。
悲しいとしか言いようがない。

この1ヶ月、真由一家や桃子、義母が何度も来てくれた。

でも帰っていくと寂しくて仕方がない。

透はもちろん、至や純も仕事の合間に来てくれるが一瞬で立ち去る。



− 大部屋が良かったなあ… −



誰かの声が聞こえていたらそれだけで安心するのに…

そうすると医師親子達が部屋に行き辛いとかその他見栄の張り合いのような文言を聞かされて特別室に入れられている。



そっとお腹に手を当てた。
一時よりだいぶ胎動が落ち着いている。

「ばくだんちゃん、早く家に帰りたいなあ…」

もう、名前は決めているのにハルは一人の時、そう呼ぶ。

この子の為に大の大人がどれだけ振り回されているか。
そのあだ名そのものだと思う。

しばらくするとウニュウニュ、とお腹が動く。
ハルが手を置くと余計に動いていた。



コンコン、とドアをノックする音が聞こえる。

ハルが返事をすると、入ってきたのは…。

「神立さん!」

ハルは目を輝かせる。

「久し振り!どう、体調は?」

「上手くいけば来週、退院だそうです。
でもすぐに戻ってきそうですけど」

神立はお菓子をハルに渡すと椅子に座った。

結局、ハルは会社を6月に辞めたが、神立とはその後も交流を続けている。

夏の結婚式、披露宴にも来て貰った。
今日はその日以来の再会だ。

「今日は外回りがあったから寄ってみたのよ。
あ、さっき、旦那さんと擦れ違ったけど、軽く挨拶をしただけで何やら忙しそうだったわ」

「今日は手術があるみたいで」

「そうなんだ。相変わらず超多忙ね」

そう言う神立だが、彼女も多忙だ。
携帯を見て目を丸くして

「もう行かなきゃ。
また、赤ちゃん産まれてからでもお邪魔するわ」

「是非、お越しください」

ハルは微笑むと神立は頷いて部屋を出ていった。



また一人になる。



寂しい…。

毎日その繰り返しだ。
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